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路傍のブログ

覚書やメモなどの予定。

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小鳥と百合の夢

  posted by らりひょ at 22:03:10 │EDIT

懐かしい鳥の声を扉越しに聞いた。
もう何年も私のかごにその姿はない。
だが、聞いた。
誰もいない薄明かりの部屋の中に響く声を。

導かれるように部屋へと入ると、鳥はそっと私の手に降りたった。
弱弱しく、私の指に頬を擦り付ける小さな鳥。
羽毛をけば立たせ、それはあまりに弱り果てていた。
愛しい小鳥。
しかし私はその名を知らない。
呼んでやる名前を知らない。
それでも鳥は、その翼を震わせながら目をつむる。
私の手の熱に安堵したかのように。

「どうして名前を呼んであげないの」
百合の花束を手にした彼女が私の隣に立った。
私は答えに窮す。
知らないのだ。
彼女は微笑みながら、しかし、強くはっきりと言う。

「あなたの小鳥でしょう」
それでも私はこのかわいそうな小鳥を知らない。
これは私の鳥ではないのだ。
困った私に、彼女は百合の花束を見せる。

「これ、あなたのお父様にいただいたの。どう?」
どう? と尋ねられても困る。
白い縁に赤い華弁の百合は、柘榴にも見える。
しかし、ただの百合だ。
きれいだけれど、美しいとは言えなかった。

「ねえ、あなた。何も見えてないのじゃなくて? そんな壊れた眼鏡だもの」
彼女は私の眼鏡を指差した。
なるほど、セルロイドの枠が溶けていた。
左目のレンズにベタベタとした不快な塊が張り付いている。

「そんなんじゃ、自分の鳥さえ見分けられない」
ああ、その通りだ。

「百合の花の美しささえも」
ああ、本当だ。

「それで、あなたは今、何を持っているの?」
私は言われて手の中を見た。
哀れな小鳥はいなかった。
あの柔らかな振動もなにも、すべて無かった。
顔をあげれば彼女もいない。

がらんとした薄明かりの中、ひしゃげた鳥かごだけがあった。

そんな夢を見た。

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